極甘上司に愛されてます
「……でも。北見さんには彼を信じてあげて欲しいな」
手元に集中しながら話す留美さん。その器用さに感心しながら、私も留美さんの言葉を繰り返す。
「信じて……」
「そう。私が言うなって感じなんだけど、よく考えてみて。透吾が人を裏切るようなことすると思う?」
「……それは、しないと思いますけど……でも」
渡部くんだって、人を裏切るようなことをする人には見えなかったのに、実際は軽い気持ちで浮気に走って、しかもそれを私が許すとまで思っていた。
彼とはちゃんと別れたけれど、やっぱり傷は深い。次の恋愛に、こんなにも影響しているんだから……
「……じゃあ、こうしよっか。私は透吾のことを信じてるから、もしも妊娠の話が真実だった場合、今日のお勘定ナシでいいわ」
「え……そんな賭け、できません! ちゃんとお支払いします!」
「大丈夫よ。透吾の方からちゃんともらうから。北見さんを泣かせた罰金って」
「いやいやいや、それも変な話ですし……」
思わず手が動いてしまった私に、「ダメ、動かないで」と優しく注意する留美さん。
今、彼女はものすごく小さなブラシで、私の爪の中央に黒いリボンを描いているところ。
土台は白とピンクベージュの斜めフレンチで、大人っぽいけど可愛らしいデザイン……こういうのが編集長の好みなんだろうか。
「で、逆にもしも私の予想が当たってたら……」
顔を上げた留美さんは、なぜか意味深ににんまり笑っている。
……なんだろう。まさか、編集長とまた付き合いたいとかじゃないよね?
それはない……はず。だって、留美さん確か、結婚を控えた彼氏さんがいるもの――。
内心焦る私に、留美さんがつきつけてきた提案は。
「――北見さんは、透吾と仲直りエッチをすること」