極甘上司に愛されてます


「……編集、長……」


あ……どうしよう。

編集長の香り、こんなに近くに感じるの久しぶりだから……離れたくない。

おずおずと、彼の背中を下からたどるように私からも腕を回すと、スーツの背中をつかんで、温もりを確認する。

きっと……ううん、絶対に。

妊娠の話は、何かの間違いだ……

今まであんなに信じられなかったのに、耳元に感じる彼の鼓動を聞いただけで、私には本能的にそう思った。


「不安にさせて、悪かった……」


すると、後悔の滲んだ優しい声が降ってきて、私は胸にぴたりと寄せていた顔を上げる。

絡んだ視線の先にある彼の瞳は、言葉を使うよりも饒舌に、私に対する想いを語っていた。


「……本当のこと、教えてください……」


今の私なら、それが聞ける。信じる心が戻ってきた、今なら。

彼の目をじっと見つめて、真剣に問いかけると。


「……細かい事情はあとで話す。けど、俺はあの女と男女の関係になったことは一度もねぇよ。信じてもらえるかわからないが、それが真実だ」


……わかってた、はずなのに。

この人がそんなひどいことするなんてあり得ないって……


「疑って、ごめんなさい……」


安心と、申し訳なさと……それから今まで抑え込んでいた愛しさが一気に溢れてきて、じわりと浮かんできた涙を隠すように、編集長の胸に顔を押し付けた。

……好きなのに。大好きなのに。

こうして本人の口から聞くまで、私。

こんなにも不安だったんだ……



< 206 / 264 >

この作品をシェア

pagetop