極甘上司に愛されてます


……そういえば、例の心理テストにこんな質問があったっけ。


【彼にキスをせがまれました。でも場所は会社の給湯室! あなたならどうする?】

a職場でそんなことしません!
b勢いでしちゃうかも……


――あれに答えた時の自分と、今の自分と、少しは変わっていると思う。

それに、あの厳しい専務の存在があるから、職場でこんなことしてるのが見つかったら、“万死に値する”とか思われそうで、かなりの恐怖。

つまり、選択肢aを選ぶのが正解!

……と、いうのはわかっています。頭では。


「……専務じゃなければ、平気だろ」


けれど、そんな楽観的な言葉とともに優しく塞がれた唇は、「職場でそんなことしません」なんて台詞を言うことを、ハナから諦めているみたいに従順で。


「………っ、ん」


キスの角度が変わるたびに柔らかく形を変えて、甘く溶けていく。

音を立てて唇を啄まれれば、段々体の力を失って、呼吸困難を起こしそうになって。

……やめなくちゃ。

誰かに見られたら大変……専務が来る確率だって、ゼロなわけじゃないし……

そう思うのに、酸欠気味の脳は、理性の割合をどんどんと減らしていく。

次第に足元がおぼつかなくなってきた私を支えるように、編集長はゆっくりと私を壁際の方へ追い詰める。

そして、壁に背を預けながら息のかかる距離で見つめ合い、キスを再開させようとした時――

鍵のない給湯室の扉が、勢いよく外から開かれて。



「…………ほお。なかなか勇気のある社員がいるようですね」



穏やかな中に棘のあるその声と、廊下から流れ込む冷たい空気を肌が感じて、私は一気に体が凍り付いてくのを感じた。

万死に値する――――。

さっき思い浮かべたおおげさなその言葉が、急に現実味を帯びて脳裏に蘇った。


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