極甘上司に愛されてます
19.雨音と彼に抱かれて
「あ……天気予報の通り」
その日、仕事を終わらせて会社の建物を出ると、昼までは降っていなかった雨が鼻の頭に当たった。
そして持っていた傘をバサッと開いたところで、突然大きな影が私の隣に並ぶ。
このストライプの黒スーツ……編集長、だ。
「……入れてくれないか? 忘れたんだよ、傘」
「あ、はい、もちろん……でもいいんですか? 専務に見られたりしたら……」
「いいんだ。今度はむしろ逆のことをしろって言われてるから」
「逆のこと……?」
そう聞くと、握っていた傘の柄がさりげなく編集長に渡って、私の代わりに彼が傘をさしてくれた。
「……手ぇ疲れるだろ。身長違うから」
「ですね……ありがとうございます」
そこまで強くない雨が、しとしと降り注ぐ雨の夜。
二人で一つの傘、しかも女物の小ぶりな傘の中では、お互いにどうしても肩が濡れてしまって、少し寒いけれど。
初めての相合傘がうれしいから、寒いと口には出さないで彼に寄り添う。
少し歩いたところで、雨の音に紛れて、編集長が言った。
「……さっきの話だけどな。専務は俺らに証明して見せろって言うんだ。“本物の愛”ってやつを」
「ほ、本物の愛……!?」
あの冷酷な専務の口から出る言葉とは思えない。
そういうの、“くだらない”とか“陳腐だ”とか鼻で笑って一蹴しそうなのに。