極甘上司に愛されてます
「……亜子」
数秒重なったのち、唇が離れて行くと、久しぶりに呼ばれた下の名前。
その声は雨みたいにしっとりと濡れていて、普段の何倍もセクシーに感じる。
「俺は単純な男だから、今のは誘い文句と解釈するが……違ったら、言ってくれ」
誘い文句……どうなんだろう。自分でも、咄嗟に出てしまったから、わからないよ。
でも、編集長がそう解釈して、困ることがあるかって聞かれたら……首を横に振る。
一緒にいたいと思うこと。それがカラダのことに繋がるのは、大人ならごく自然な考え方。
もっとキスをしたい。声を聞きたい。ぬくもりに触れていたい……それって、シンプルに、彼と抱き合いたいってことだから。
「……違わない、です」
編集長の目を見つめて、雨の音に負けないようはっきりと告げた。
ゆっくり瞳を閉じた彼は、私の頭を引き寄せておでこに口づけると、地面に転がった傘を拾って、再び私たちの頭上に差した。
「……今さら、遅ぇって感じだな」
お互いずぶ濡れになっている姿を見て、編集長が苦笑する
「ですね」
彼につられるように、私もクスッと笑うと、これ以上冷えないようにと彼の手を取ってアパートの方へ歩いて行く。