極甘上司に愛されてます
「……そういえばお前さ。いい加減、“編集長”っての、どうにかなんねぇか?」
頭上の彼が、甘い声で私に尋ねる。
前に誰も聞いてないところで“透吾”って言ってみたことはあるけど、あの時の恥ずかしさを思い出したら、今でも赤面できる。
「……ダメ、ですか?」
「ダメじゃねぇけど……なんとなく、背徳的な気分になるんだよな。それはそれでアリっちゃアリだけど」
は、背徳的……。しかもそれが“アリ”って、なんか変なプレイみたいじゃない……
それなら名前を呼ぶ恥ずかしさを取る方がマシな気がする。
「……練習、します」
「練習しなきゃ呼べねーのかよ。まあいいけど」
私の手首を緩く拘束している彼は、呆れたように笑って、それから私に呼ばれるのを待っている。
「……と、と……」
だけど本人を目の前に、しかもこんな臨戦態勢(?)でイキナリ名前呼ぶなんて、ハードル高い!
そのままなかなか「透吾」と呼べない私に、彼は“もう待てない”と言う風に、一度キスを落とす。
「……時間切れ。わざわざ気張って言おうとするからダメなんだろ。そのうち自然に言いたくなる。……つーか、言わせる」
最後の言葉だけ真剣な声で言われて、ドキン、と心臓が大きく高鳴った。
そして、彼のくっきりとした二重瞼の中にある漆黒の瞳に、吸い込まれる――そう錯覚した瞬間、私の手首をつかんでいる彼の手に力がこもって、彼の唇が首筋に落ちてきた。