極甘上司に愛されてます
20.ウサギとオオカミとキツネ
街路樹が色づいた葉を落としきり、その代わりにカラフルな電飾が木々に巻きつけられるようになった、十二月のある日のこと。
私は来週発行分のできたての新聞を持って、専務室の扉をノックしていた。
「――どうぞ」
「失礼します」
中から聞こえた声に扉を開けると、デスクで書類に目を通していたらしい専務が視線を上げ、真顔を崩さずに言う。
「何の用ですか?」
「これ……前に専務に褒めて頂いた企画、実現したので」
賞状を渡すかのように、うやうやしく両手で彼に差し出した新聞。
彼は相変わらず冷たい瞳でそれを見ると、黙って受け取り目を通し始める。
「……どうでしょう」
専務が何か抱えている……そのことだけは編集長(結局透吾と呼ぶのは全然慣れない)に聞いていたけど、結局今もそれ以上のことは知らない。
でも、前に企画書を見せたときに“自分の考えを変えてくれる意見に出会いたい”――そう話していたのがずっと気になっていたから、これが何か彼の助けになればと思い、完成した新聞を持って、今日はここへ来たのだ。
「“今はできていないけど、したいと思っている”――が、七割、ですか」
ふいに、新聞を読んでいた専務がそう呟く。
きっと、アンケート結果を集計した円グラフを見ているのだろう。