極甘上司に愛されてます


「そうなんです……“できる”は一割。そして、“できない”は二割」

「その二つだけ見てしまえば、“できない”の勝利だったわけですが……実際は、皆“どうにかしたい”と思って日々仕事や恋愛と戦っている。そういうことでしょうか」

「はい。仰る通りです」


専務の言葉にうなずき、記事の文字を目で追っている彼に語りかける。


「恋愛なんてしなくても生きていけますけど、特別な人に出会ったら、パワーが湧きます。それはときどき、嫉妬とか、憎しみとか、負の方向に働いてしまうこともあるけど……でも、誰かを大切に思うことって、絶対に人を成長させると思うんです」


目に見える成果もあるだろうし、内面の変化だけかもしれない。

でも、どちらも、自分が自分であるための、大事な要素。

今の私があるのだって、今まで関わってきたすべての人のおかげなのだから。


「その特別な相手が、たとえ上司でも、部下でも、専務でも社長でも、関係ないと思いませんか? その人がいるから頑張れる。その気持ちの源になる存在を、誰にも否定する権利なんてないと思いませんか?」


畳みかけるように話した私を一瞥した専務は、ため息をつきながら新聞を折って、自分のデスクの上にパサリと放った。

そして、苦々しくこう呟く。


「……全く、よくしゃべるウサギだな。私はもうあの規則は撤回したはずですが」

「ま……まぁそうなんですけど」


こ、怖い……! ちょっと生意気言いすぎた?
でも、一度専務とちゃんと話してみたかったんだもん……


「その説教じみた台詞は、オオカミに入れ知恵されたんですか?」

「オオカミ……?」


ウサギ、っていうのは前々から何度か言われていたからすんなり受け入れてしまったけど、オオカミって、一体誰のこと……?


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