極甘上司に愛されてます
「……きみたち二人、遊園地で馬鹿げたかぶりものを被っていただろう」
「かぶりもの……え! 専務がなんでそのこと……!?」
口を大きく開けて固まる私に、彼は飄々とした様子で話し出す。
「私はあの日、一人で遊園地にいたんですよ」
「ひ、一人で……? どうしてまた」
「……聞いてないんですか? オオカミ男から」
「はい……特に何も」
そう答えると、おもむろに椅子から立ち上がった彼が、ポケットに手を入れながら窓の方を向く。
「……口の堅い男だな。すぐにうわさが広がると思ったが、今のところ被害がないのはそのせいか」
私は専務の話していること理解できなくて、ぽかんとしたまま彼の後姿を見つめることしかできない。
でも、いつか編集長が“あの人にもいろいろある”と話していたのは、きっとこのことだ……そんな予感がして、専務の言葉を待った。
そしてしばらくすると、専務がこちらを振り向く。
「前に、話したことがあると思いますが……部下にセクハラで訴えられた上司というのは、私のことです」
「え……えぇぇぇぇ!?」
この、冷酷イケメン専務を訴えるなんて勇気のある女性が……!?
って、違う違う。そんなことより“セクハラ”……って?
そりゃ、私だってこの人を好意的には見ていなかったけど、さすがにそんな人の道から外れたようなことをする人だとは思っていない。
「……し、したんですか? セクハラ」
「キミは……もうちょっと他に聞き方があるでしょう」
「す、すいません……」
「もちろん私にその気はありませんでしたよ。……なぜなら、付き合っている相手でしたから」