極甘上司に愛されてます
付き合っている相手……!
それって……なんだか、すごく、切ない事情がありそう。
……そっか。なんとなく、わかってきた。
どうして彼がこんなに冷たい人になってしまったのか。
それに、中途半端な時期に、全国版の新聞社からこんな小さな会社にいきなり移ってきた理由……
「……誰かに、ハメられた……ってことですか?」
「“誰か”ではありません。彼女本人です」
「そんな……だって、好き同士だったんじゃ……!」
思わず感情的になってそう言った私に、専務は冷静な態度を崩さず淡々と告げる。
「私の方は、そう思っていましたが……彼女は、同時にもう一人の男と付き合っていたんです。まあ、簡単に言うと二股ですね。それで僕のことが邪魔になって――」
「――わかります! 専務! そのつらさ!」
“二股”のワードに過剰な反応を示した私は、専務の言葉を遮って窓際に佇む彼の手を握り、勝手に握手をしながら熱弁する。
「私も、経験ありますもん……信じてた人に裏切られて、それまで築いてきた関係がグラグラ揺らいじゃうあの悲しさ」
「……でも、今は幸せそうですけど?」
「え、いや、その……はい。シアワセ、です」
ハタから見ても、私たち幸せそうなんだなぁ。
そのことを、まさか他人に興味なんて全く持ってなさそうな専務の口から聞けるなんて。
……イカン、口元が緩む。
突然にやけ出す私に呆れたような息を洩らすと、専務は遠くを見るようにして、話しの続きを語った。
「……私が遊園地にいたのは、あそこが彼女との最初のデート場所だったからです。女々しいと自分でも思いますが、セクハラの濡れ衣を着せられたというのに、最後に彼女との思い出に浸りたいなんて、馬鹿なことを考えて……」