極甘上司に愛されてます
自嘲するような笑みを浮かべる専務を見て思う。
……こんな、人間らしい表情をする彼を見るのは初めてだ。
今までの冷たい専務は、もしかしてただそういう仮面をかぶっていただけ……?
「馬鹿なことなんかじゃないです……! そんなにすぐ、気持ち切り替えられる人なんていません。だからこそ、みんな、悩んでるんです……」
ちら、と専務のデスクの上に視線を動かす。
さっき彼が折りたたんだ新聞の見出し――私の人生の永遠のテーマでもある文言が、天井から吹き出す暖房の風でひらひらと揺れている。
「……私も、きみのような人に想われたかったですね」
「え?」
その言葉に反応して専務の方に向き直ると、長い人差し指が私の顎の下に添えられる。
な、な、なに? この状況……!
石のように固まってしまった体の中でかろうじて動くまぶたをぱちぱちと瞬かせていると、専務は切れ長の瞳をさらに妖しく細めて、口角を引き上げるとこう言った。
「……オオカミに忠告しておいて下さい。狡猾なキツネが、あなたのウサギを狙っていますよって」
「そ……それ、って……?」
ごくりと唾を呑みこんで彼を見つめると、顎に触れていた手がスッと離れて行く。
「……さあ。自分で考えることです。まあ、私が横槍を入れたところで、簡単に壊れるような関係では困ります。あなたたちには期待しているんです。
同じ社内の、上司と部下という組み合わせで、恋と仕事が両立できるのか――それを見せてもらいたいのでね」
いつも自分の心に掲げられているその疑問……専務に言われると、ものすごい難問に聞こえてしまうけれど、私たちは大丈夫。
壊れるつもりなんて、まったくないんだから。