極甘上司に愛されてます


「専務のご期待に添えるよう、頑張ります」


力んで答える私にふっと笑みを洩らすと、専務はふと思い出したように言う。


「そういえば……私は来月から“専務”ではなくなります。前任の専務のけがの回復が順調で、全快には至らなくても職場に復帰することはできそうなので」

「……! そうなんですか、よかった……でも、じゃあ……」


……そうなったら専務の居場所はどこになるんだろう?
まさか、会社からいなくなったり……?


「……とは言っても。私から逃れられると思ったら大間違いですよ?」


こ、こわっ! エスパーですかあなたは!
考え読まないでよ〜!

“冷たい専務”が仮面というのは考え過ぎだったみたい。

すっかり怖気づく私を見てにっこりできるその神経……彼の元来の性格としか思えないもの。


「肩書きは“経営戦略室 室長”というものに変わりますが、やることは今までとほぼ同じです。営業部と編集部の統括・管理、そして社長の補佐。
ま、これからも、気になった部分に関しては小姑のように口を挟んでいくつもりなので、覚悟しておいてください」

「こ、こじゅーと……ですか」


その例え、似合いすぎてるんですけど……

なんて言ったら、さっそく小言が飛んできそうだから、ぐっと堪える。


「――たとえば」


そう前置きすると、急に私の方へずいと迫ってきた専務。


「……な…………っ」


反射的に後ずさりするも、腰が彼のデスクにぶつかって、もう逃げ場はない。

そのまま鼻と鼻がぶつかりそうな距離にまで顔を近づけられ、わざわざ囁くような声で彼が吐き出した言葉は。

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