極甘上司に愛されてます


「……給湯室でのキス禁止、とか」


そ、そうだった……あのとき、見られていたんだった、この人に。


「あれは……その……社内の風紀を乱すようなことをして、まことに申し訳ありません……」


キスしていた事実は変えられないから、素直に謝るしかない。

けれど私の謝罪を聞いた専務は、予想に反して私を責めることはなく。


「……どうせ、あれは高槻くんが理性を失くしたんでしょう。これだから、バイク乗りという人種は……」

「バイク乗り……?」

「ああ、きみたちの交際に口を出すのは止めましたけど、今でも彼自身のことは嫌悪しています。……なぜなら、彼がバイク乗りだから」


あの……意味がわからないんですけど。

バイク乗りを嫌っているというのは、未だ撤回されていない“バイク通勤禁止”のことを考えればなんとなく窺えるけれど……

私が眉根を寄せて戸惑いを見せると、専務は机から離れて、再び窓の方を向く。


「理不尽なことをしているとわかっています。でも、彼女に“選ばれた”方の男は、みみっちい仕事しかしないくせに、馬鹿でかいハーレーを乗り回す奴だったもので……どうもバイクには良い印象がないんです」


彼女に“選ばれた方”――ってことは、二股を掛けられていたもう一方の男性ってことか。

それは、専務にしてみればフクザツかも……とはいえ、編集長には何の関係もないことだから、とばっちりもいいトコだけど。


「……無駄話が過ぎました。仕事に戻って下さい」

「は、はい……あの」

「まだ何か?」



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