極甘上司に愛されてます


いつもの彼の絵といえば、毒々しい色の幾何学模様が折り重なった、不気味な雰囲気のある抽象画。

もし今回もそれなら、職場に飾られるのちょっと嫌だな……
そう思いながら緩衝材のプチプチを剥いでみると。


「あ……素敵」


優しい色合いの、大小さまざまなドットがキャンバスいっぱいに描かれたその絵は、冬空を舞う雪を思わせるような、儚さと美しさを感じるもので。


「……どうやら、子どもができて作風が変わったらしい」


私の手から大きな絵を受け取り、どこの壁に掛けようか思案しながら、編集長が言う。


「へえ……変わるものですね、人って。彼のことまた取材してみるのも面白そうです」

「……担当はお前以外にするけどな」


ぼそりと呟かれたその台詞を、嬉しく思うのは自意識過剰かな?

前に、あの先生に迫られかけたこと……それを気にして、嫉妬してくれてるって思って、間違いじゃないよね?


「……大丈夫ですよ。それこそ、もうお嫁さんとお子さんがいるんですから」

「まぁな……あ、そういえば」


絵を飾る場所を決めたらしい編集長は、その壁に絵を立てかけてから、こちらを振り向く。

そして胸ポケットの中を探ると、半分に折りたたまれたメモ紙を出して、私の手に握らせた。


「今夜、ココの予約取れたから、俺が遅かったら先に行ってていい」

「……! わ、わかりました」


ぴらっと中を開いてみると、そこには人気のフランス料理店の名前と、電話番号が記されている。

わぁ、ここ、一度行ってみたかった場所だ。ワインの種類が豊富って有名の。

確か、日本代表に選ばれたことのある腕利きのソムリエもいるって聞いたことがある。


< 229 / 264 >

この作品をシェア

pagetop