極甘上司に愛されてます
定時を過ぎると、私と同様にいつもよりちょっとおめかししている女性陣は、「お疲れ様でーす」という声もワントーン高めで、続々と退社していく。
家族のいる佐藤さんは、お昼休みに買ってきたらしいサンタの衣装をビジネスバッグに無理矢理ぎゅうぎゅう詰め込みながら「子供に見つからないようにしなきゃならなくてさー」と、幸せそうな笑みを浮かべて、そそくさと帰っていった。
私もキリのいいところまで仕事を片づけると、バッグと椅子の背に掛けたコートをつかんで編集長の席に近付く。
「……ああ、終わったのか。悪いけどもうちょっとかかるんだ。先に行って、ワインでも飲んでていいぞ」
「いえ……乾杯は二人でしたいですから、ちゃんと待ってます」
「そうか? ……たぶん、三十分以上は待たせることになるけど」
「大丈夫です。お店までゆっくり歩きますから」
「……わかった。できるだけ早くする」
編集長と別れて会社の外に出ると、寒さに身を縮ませながら、レストランの方向に歩き出す。
立ち並ぶお店はどこもクリスマスらしい飾り付けがされていて、それを見ながら歩くだけでも心が弾んでくる。
いつもはやんわり断ってしまう、アヤシゲな電話番号の載っているティッシュも、配っているお兄さんがサンタクロースの格好をしていたから、笑顔で受け取ってしまった。
しばらく歩くと、前から見知ったパンツスーツの女性が歩いてきて、私に怪訝な眼差しを向ける。
「……ちょっと亜子ちゃん。にやけながら歩いてると不審よ?」