極甘上司に愛されてます
「あ……理恵さん! これから会社に戻るんですか?」
「ええ。この時期あんまり契約してくれる会社ってないんだけど、今日は二社も収穫あったから、心置きなく帰れるわ」
「すごーい。あ、早く帰りたいってことは、今夜は旦那さんとデートですか?」
冷やかすような口調で言うと、珍しく照れたように笑った理恵さん。
「……そ。こないだの亜子ちゃんの記事のおかげで、仲直りできたの」
「ホントですか? 嬉しい!」
こないだの記事…… 実は、理恵さんからそう言ってもらう前にも、編集部には電話や手紙で結構な反響が寄せられていた。
“仕事で忙しい彼のこと、もっと理解する努力をしようと思いました”
“妻任せだった家事を、もう少し手伝ってみます”
“今は恋愛をお休みしているけど、また誰かを好きになりたいです”
――等々。
ウチの新聞は広告収入で成り立っているから、宣伝関連以外の記事をメインで載せることはごくまれだったらしいのだけど。
今回のことで、意外と読者はそういう記事を求めているのだとわかり、紙面の内容の方向性を少しずつ変えてみようという流れにもなっている。
そうやって、自分の発信した何かで仕事が大きく動くことに、すごく感激したし、大きなやりがいも感じた。
「……そういえば、編集長は一緒じゃないの?」
「あ……まだ仕事が終わらないみたいで、先に行っててくれって」
「ふうん……そっか。じゃあ、私、会社戻るわね」
「はい。お疲れ様です」
旦那さんと過ごすクリスマスのために、早足で会社に向かっていく理恵さんの後姿を微笑ましい気持ちで見送り、私はまた歩き出す。
そしてオフィスや飲食店の並ぶにぎやかな通りを過ぎ、静かな住宅地に入ったところで、レストランの建物は見えてきた。