極甘上司に愛されてます


「あそこか……」


そう呟いて足を進めようとすると、バッグの中でスマホが鳴っていることに気が付いた。

編集長かな……?

スマホを取り出してみると、やっぱり彼からの着信で、もしかしたら仕事が早く終わったのかもしれないという期待を膨らませながら、電話に出る。


「はい、北見です」

「……俺だ。悪いがちょっと頼みたいことがある」

「頼み……? なんですか?」


どうやら、仕事が終わったわけではないらしい。

落胆が伝わらないように明るい声で聞き返すと、ため息交じりにこんな声が返ってきた。


「キャサリンがまたいなくなったらしい」


キャサリン……? って、あの黒猫か!

もしかして、頼みって、その子の捜索……?

よりによって、クリスマスイブに行方不明にならなくても……!


「……どこを捜せばいいんですか?」

「それが、見当もつかないらしいんだよな……」


ええっ?

……そんな、手がかりなしじゃ今夜中に見つけ出せるかどうかもわからないじゃない。

可能性は薄いけど、捜索はまた小林先生のアトリエ辺りからかなぁ……

デートの予定が猫探しに変わってしまって、がっくり項垂れたいのをこらえながらスマホを耳に当てていると、空いている方の耳にかすかな鈴の音が聞こえて、何気なく音のした方に視線を向けた。

すると、闇に紛れて低い場所に、こちらを見つめるふたつの瞳が見える。

あれ………………もしかして、黒猫?


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