極甘上司に愛されてます


この次は、きっとアレだ……

勝手にパイプオルガンが鳴り出して、私は悪魔か吸血鬼にさらわれるんだぁぁ!

半分泣きそうになりながら、両手で耳を塞いだ私。

すると、コツコツと、こちらに近付いてくる足音が聞こえて……ぽん、と肩に誰かの手が。


「お前、なにびびって――――」

「きゃぁぁぁ! 許してぇぇぇ! 」


お腹の底から叫ぶと、お化けの手はビクッと震えて私の肩から離れていく。

とりあえず、さらわれずに済んだみたい……?

……でも。今聞こえた声って、お化けと言うよりは人間の……というか、知り合いの声、だったような。

おそるおそる首を後ろに回転させると、片方の耳に人差し指を突っ込み、しかめっ面をしているワイルドイケメンなお化けの姿……

って、お化けじゃないし!


「へ、編集長……!?」

「お前な……鼓膜破れるとこだぞ」

「だ、だって、お化けかと思って……!」

「失礼な。自分の恋人をバケモン扱いか」


……なんだ。よかった……一気に肩の力が抜けて、はぁ、と息をつく。

編集長は不服そうな顔をしているけど、安堵の気持ちで胸がいっぱいになった私は、彼の方へゆっくり近付いて行って、ぼそりと呟く。


「……逢いたかった、です」


そして、迷子の子がお母さんを見つけたみたいに、涙を滲ませながら。

彼の広い胸に、自分からぎゅっと抱きつく。


< 237 / 264 >

この作品をシェア

pagetop