極甘上司に愛されてます
「取材には編集長も同行するって言ってたから、そんなに緊張しなくていいよ。あ、でも写真の向きには気をつけてね」
ニコッと微笑みながら、さりげなく佐藤さんが吐いた毒に、先輩たちも苦笑い。
わかってはいたけど、やっぱりみんなあの失敗は“あり得ない”と思っているんだ……なんて恥ずかしい。
ここで名誉挽回しなくちゃ。編集長がパートナーなら、心強いし。
だいたいの特集の内容が決まり、決意も新たに編集部に戻ると、小林先生のところへ向かう時間が迫っていた。
私は荷物とジャケットを手にして、壁に掛けられた部員の行動予定を書き込むボードに近付く。
そこに“小林風人先生のアトリエ”と書き込んでから何気なくそのボードを眺めていると、編集長の欄に謎の予定が書きこんであった。
【キャサリンの捜索】
キャ、キャサリン……って、誰……?
クセのある右肩上がりの字は、確かに編集長が書いたんだろうけど……
「って、そんなことより三日月堂……!」
あそこの羊羹はこの辺りでは一番人気で、早く行かないと売り切れてしまう日もあるんだ。
私はボードに背を向けると、上着に袖を通しながら慌ただしく編集部を後にした。