極甘上司に愛されてます


苦笑しながらそう言った彼だけど、穏やかに細められた目には菊治さんへの愛と感謝が滲んでいる気がした。

二人に血のつながりはないけれど、彼らは本当に、父と息子みたい。

いつもぶっきらぼうな言い合いをしているのに、心の奥底ではいつも、お互いを思いやっているんだもの。


しばらく話しているとチャペルの室内がなんだか底冷えしてきて、そろそろ出ようかと二人で出口に向かう途中、私は呟く。


「……会いたいな、菊治さん。もう退院してますよね?」

「ああ。じゃあ今度一緒に行くか。……冷やかし目的で」


イタズラっぽく笑った編集長に、私は首を傾げる。


「冷やかし?」

「あのじーさん、今年下のオンナがいるんだ。しかも聞いて驚くなよ? その相手、あの事故でトラックに乗ってた運転手なんだ」

「えええっ!?」


それは、驚くなという方が無理です!

出会いにはいろいろな形があるとは言うけれど……事故の加害者と被害者がそういうことになるって、アリなの?


「その人、自分の不注意で起きた事故のことでかなり胸を痛めていて、家族のいない菊爺のこと、献身的に見舞ってくれたらしいんだ。……その間に、どうも何か生まれちまったらしい」

「へええ……」


……長い人生、何があるかわからないというのはこのことか。

でも、生きがいだった仕事ができなくなってしまった菊治さんに、愛する人ができた。

そのことで元気のなかった心が活力を取り戻したんだとしたら、それは喜ばしいことに違いないよね。

私も、その彼女に会ってみたいな。……照れてる菊治さんも見たいしね。


< 246 / 264 >

この作品をシェア

pagetop