極甘上司に愛されてます
小林先生のアトリエは、市街地から外れたのどかな場所にある。
バスに乗ってそこに向かう私は、稲刈りが迫ってこうべを垂れる黄金色の稲穂が風にゆらゆらとそよぐのを窓越しに見ながら、車どおりの少ない道路にぽつんと置かれたバス停に着くと、そこで降車した。
しばらく歩くと見えてくる、平屋建ての日本家屋。
一見この辺りに住む農家の方の家のようだけど、あれこそ小林先生のアトリエ。
昔話に出て来そうなその古めかしい家の前に来ると、引き戸の隣のチャイムを押して、私は自分の服装をサッと正した。
羊羹はちゃんと買ってきたし、会ってもらう約束をしたときも先生の声は穏やかだったし、きちんと謝れば大丈夫だよね――。
私が緊張しながら立っていると、ガララ、と音を立てて開いた扉。
「こんにちは。いらっしゃい」
そこから顔を出した小林先生が、ジーンズにトレーナーというラフな格好で私を出迎えた。
「こんにちは……! お忙しいところ時間を割いていただいて申し訳ありません!」
「大丈夫。ちょうど手が空いたところだから」
この間編集長とともに来たときと同じように、美しい笑顔を向けてくれる小林先生。
女好き――という編集長からの情報を思い出して少しドキッとしながらも、そんなことを考えながら謝るのは失礼だし、先生にだって選ぶ権利ってものがあるし……と、自分を落ち着かせる。