極甘上司に愛されてます


定時を一時間ほど過ぎたところで、私の仕事はキリのいいところまで片づけることができた。

デスクの上を整頓してちらっと編集長の方を見ると、彼の方はまだ終わる様子がない。

今日は金曜日ということで、予定としては彼の家にお泊りすることになっているのだけど……。

編集長の席をじっと見ていたら、ふいに彼の携帯が音を立てて、彼が電話に出る。

そして電話耳に当てたまま、編集部を出て行ってしまった。

まだまだ終わらなそうって感じかな……仕方ない。先に行ってよう。

彼の家に出入りするようになってすぐの頃に合鍵を渡されたから、今日のように私が先に帰って彼の家で待っているというパターンも少なくはない。

編集長用の本命チョコも、彼が帰ってきてからゆっくり渡せばいいかな。

そう思いながら、私はまだ残っている先輩たちに挨拶をして、編集部を後にする。

一階に降り、会社玄関のガラス扉を出ると、ちょうど同じ扉を入ろうとしていた編集長とバッタリ顔を合わせた。

彼の手にはまたも乙女チックなハート柄の紙袋がぶら下がっていて、もしやさっきの電話はチョコを渡す呼び出しコールだったのか……と思うと、むくむくヤキモチ心が湧きあがる。


「あ……亜子。悪いな、あと三十分もかからないとは思うんだが……」


腕時計を見ながらそう言った彼だけど、私はふいと顔を背けて言う。


「いいです。大丈夫です。こんな風に仕事中ちょくちょく呼び出されたんじゃ、はかどらないですもんね」


……あーあ。トゲのある言い方しちゃった。

と、後悔する気持ちはあるものの、彼の前ではそれを出せずにむくれた顔をしてしまう。


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