極甘上司に愛されてます
「……なんだ、嫉妬か」
しかし、編集長は余裕たっぷりに笑いながらそう言うものだから、私はますます不機嫌になってしまう。
「……違います。私のことはいいから仕事に戻って下さい」
「おい亜子。……拗ねんなって」
少しだけ怒ったような声が降ってきて、私はおずおずと彼を見上げる。
そして、真剣な瞳をした彼が、何か言おうと口を開きかけたとき――。
「あ、あのっ! 高槻さんですよね!」
少し離れた場所からそんな声が掛けられ、二人で声のした方を振り向くと、私と同じくらいの歳の女の人がいた。
頬を赤く染めて、白い息を吐き出しながら近づいてきたその人は、私なんてまるでいないもののように編集長だけを見つめて、可愛く包装された箱を差し出す。
「これ……今日、バレンタインなので、よかったら」
素直そうで、ニコニコしていて、可愛い人。
そんな彼女を見ていたら、つまらないことでいじけている自分がものすごくカッコ悪いような気がしてきた。
編集長も、私がいる手前受け取ろうかどうか悩んでいるようだ。
これ……完全に、邪魔者じゃん、私。
「……私、帰ります」
ぼそりと小さな声でそう言い残し、二人に背中を向ける。
そうしてこの場を立ち去ろうと歩きはじめると、二、三歩進んだところでがしっと腕を掴まれた。