極甘上司に愛されてます
「……なんですか?」
恨めし気に言って振り向くと、編集長は私にではなく、可愛らしい女性の方に向かって言う。
「この、ふくれっ面してんの……“俺の”なんです。たぶん、それ受け取るともっと機嫌損ねると思うし……それに」
……なんですかその言い方。私がいなきゃ受け取るみたいじゃないですか。
しかも、“ふくれっ面”って。そうさせたのは誰だと思って……。
腕を掴まれたままさらに仏頂面を続けていると、次の瞬間耳に入ったのは、彼のこんな言葉。
「……たぶん、俺はコイツの作ったものしか“美味しい”と思えないから。だから……ごめんなさい。せっかく会社まで来てもらったのに」
……編集、長。
思わず振り返ると、真摯な彼の横顔と、残念そうに苦笑する女性の姿が目に入った。
ヤキモチ心は静かにおさまっていき、その反面罪悪感が湧いてくる。
けど、今さら“受け取ってもいいですよ”なんて言えないし……。
「わかりました。残念ですけど、高槻さんのことは諦めます。その代わり……」
そう言うと、女性は再び編集長に向かって箱を差しだし、にっこりと微笑む。
「これ、石神さんって方に渡してください。高槻さんがダメなら彼に渡そうって思ってたんです!」
彼女の予想外の発言に、私も編集長も目を丸くする。
そういえば、こないだの記事には、室長の姿も小さく写真に載ったんだっけ……。