極甘上司に愛されてます
予想外の指令が下り、私は思わず嫌そうな顔をしてしまう。
だって、あの人バレンタインなんか絶対に興味ないし……冷たいこと言われて突き返されるのがオチな気がする。
「……編集長が渡してくださいよ」
「俺じゃ、たぶん無視されて終わりだろ? 頼む」
「私も嫌ですよ~!」
そうして会社の前で言い合っていると、急に玄関の扉が開いて私たちはそろって押し黙った。
スーツの良く似合うすらっとした体型に、感情の読めないポーカーフェイス。
……まさかのご本人登場だ。
私はごくっと唾を呑んで、姿勢を正す。
「お疲れ様」
私たちをちらっと見た室長は抑揚のない声でそう言うと、すぐにこの場を離れようとしてしまう。
「やばいですよ、今渡さないと」
「わかってる。……亜子がな」
「やですってば……!」
小声で言い合いながら箱を押し付け合っていると、数メートル先にいた室長が急にこちらを振り向き、つかつかと大股で戻ってきた。
一体なんだろうと思っていると、彼は編集長に向かって、こう聞いた。
「……高槻くん。今日の収穫は?」
「収穫?」
怪訝そうに編集長が聞き返すと、室長はゴホンと咳払いをして小さな声で言った。
「チョコですよ。……チョコの数」