極甘上司に愛されてます
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それからおよそ一時間後の、会社から徒歩十五分の場所にある彼のマンション。
その八階、モノトーンで統一されたインテリアに囲まれた大人シンプルな部屋で、私たちはささやかなバレンタインを楽しんでいた。
「……美味い。お前、プロか?」
編集長はお洒落なブラックレザーのソファに座り、お皿とフォークを手に私の作ってきたフォンダンショコラをひとくち食べたところ。
「それは言いすぎですよ。でもよかった~」
私はラグの上にぺたんと座って、ホッとしながらコーヒーに口をつける。
しばらくすると、あっという間に空になったお皿が目の前のテーブルに置かれて、ソファから降りてきた編集長が、私を後ろから包み込むようにして座った。
ドキドキしながらマグカップを両手で握っていると、それをそっと私の手の中から抜いた彼が、耳元で低い声を響かせる。
「……俺は幸せ者だな。料理上手な嫁もらえて」
しみじみと言われて、思わず頬がが熱くなった。
「ヨ、ヨメって……」
「おい、忘れたとは言わせねぇぞ? クリスマスの約束」
不服そうに言われて、私の中に蘇るクリスマスの記憶。
神聖な雰囲気の中、夜のチャペルで私たちは永遠を誓ったんだ。
あのときもらった指輪はつけるのがもったいなくて大切にしまってあるけれど、約束を忘れたことは一日もない。