極甘上司に愛されてます
彼に抱き締められたままで少し振り返ると、優しい眼差しをした彼と目が合う。
ドキドキと胸が鳴るのを耳の奥で聞きながら、私は小声で言った。
「……忘れるわけないじゃないですか。あんな、感動的で素敵な出来事……」
言ってから恥ずかしくなりぱっと俯くと、耳たぶに彼の唇が当たる感触がした。
同時に、悩ましげな熱い吐息も吹き込まれる。
「ひゃ……!」
思わず肩をすくめて背後の彼をにらむと、余裕たっぷりに微笑んだ彼が言う。
「素直でよろしい。それに、料理上手で感度良好。……お前は最高の女だよ」
「か、感度って……っ」
喜んでいいんだろうかそれは……。
すさまじい照れに襲われて、かぁっと耳まで熱くなる。
「でもそういえば、渡部くんも似たようなことを言ってた気が……」
私はそんなことをふと思い出して、独り言のようにつぶやく。
確か、床上手とかなんとか言ってたっけ……。
「なんだと?」
急にトーンの落ちた声にはっとして彼を見る。
すると不機嫌そうな彼はひょいと私を抱きかかえて、そのまますぐ側にあるソファに優しく下ろした。
「編集長……?」
もしかしたら、怒ってしまったかな……二人でいるときに元カレの話するなんて、デリカシーなさすぎたかも……。