極甘上司に愛されてます


「本当の持ち主が探してるんです。返してもらえますよね?」

「そ、それは構わないが……」


編集長の迫力に負けたのか、ただ従順に頷く小林先生。

そんな彼に小さく頭を下げた編集長は、窓辺にお行儀よく座る黒猫の前にしゃがむと、頭を撫でてからひょい、とケージの中に猫を入れた。


「――よし! 任務完了! 北見、帰るぞ」

「は、はい……いや、でも」


ちら、と小林先生の方を窺うと、首を横に振りながら“しっしっ”と手を振る仕草をした。

どうやら機嫌を損ねてしまったみたいだ。せっかく謝りに来たはずだったのに……

しゅんとうつむく私の頭の上に、ぽん、と大きな手が一度乗せられた感触があって、それからその手の持ち主が、先生の前にずいと出て行きこう言った。


「今後一切、ウチの大事な記者に妙な真似しないで下さい。今度またあなたを取材することがあった時には、俺が担当しましょう。なんなら、絵のモデルになってもいいですよ?」


編集長……

私のいる位置からは彼の背中しか見えないけれど、その背中から、とてつもない頼もしさがにじみ出ている。

でも、いくら頼りになる上司だからって、二日連続で迷惑を掛けているのはさすがに情けなすぎるよ。

あとで、ちゃんとお礼を言わなくちゃ。


「ああ……わかったよ。モデルは結構だけど」


髪をかき上げ、諦めたように苦笑しながら言った小林先生。

どうやら私にしたことも少しは反省しているみたい……かな?

特に波風を立たせることなくこの場をおさめた編集長って、やっぱりすごい。


……それにしても、どうしてここにいたんだろう。

確か行動予定に書いてあったのは、“キャサリンの捜索”。

そしてキャサリンというのは、あの黒猫のことみたいだけど――


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