極甘上司に愛されてます
久しぶり……そういえば、編集長の浮いた噂って、入社してからひとつも聞いたことがない。
でも、「彼女いないんですか」なんて不躾な質問を上司にぶつけるのは失礼だよね。
少し気になったけど、私はとりあえず違う質問を彼に投げかけた。
「……そういえば。そもそもなんでこの子を探してたんですか?」
ウチは探偵事務所じゃないのに、猫探しの依頼でもあったのかな。
身を屈めてケージを覗き、舌を小さく鳴らしてみると、キャサリンは「にゃお」と甘えたように鳴いた。
……うーん、かわいいなぁ。
「ウチの紙面に“探し物”を載せることがあるだろ? そこにキャサリンのことも一度載せたんだ、確か先月。けど、ひと月たっても全く見つからないからって飼い主に文句言われちまって……」
飼い主に文句を……?
私は曲げていた膝を伸ばして、編集長の顔を見上げる。
「でもそれって、私たちのせいじゃないんじゃ……」
「まあな。それもそうなんだが、幼い兄妹に責められたらそうとばかりも言ってられなくて」
「幼い兄妹?」
「……知りたきゃついて来い。これからその兄妹がいる家に行くから」
バスを乗り継いでやってきたのは、閑静な住宅街。
編集長はその中の一軒の家に近付くと、インターホンを押した。
それには小さなカメラが付いていて、家の中からモニターを見たらしい子供のあどけない声が、インターホン越しに聞こえた。
『オジサン! 見つかったの!? キャサリン!』
「ああ。遅くなって悪かったな」