極甘上司に愛されてます
たとえば取材期間中に、(あり得ないとは思うけど)渡部くんからプロポーズされたとする。
そしたらもう、取材先の式場で見るもの聞くもの全部、きっと自分たちのことに繋げてしまって、主観ばかりの記事ができてしまいそうだし……
渡部くんは、きちんと話せばわかってくれる人。
仕事のためだってちゃんと話せば、少しの間連絡が取れなくたって、きっと私のことを待っていてくれる。
扉が開いているのになかなか乗車しようとしない私たちに、運転手さんが「お急ぎください」とマイクで呼びかける。
ぺこりと頭を下げながらバスに乗り、周りの迷惑そうな視線に肩をすくめながら、編集長と並んで吊り革をつかんだ。
そうしてぼんやりと、窓の向こうに広がる暗闇
を見つめていると。
「……お前のやる気はわかった。けど、無理すんなよ」
隣から降ってきた優しげな声に、私は返事をしなかった。
編集長はきっと、どうせ私のことだから、途中で彼氏に連絡したくなるって思ってる。
実際そうかもしれないけど、今回はそれに耐えなきゃだめだ。
多少の無理はしてでも、ちゃんと自分をコントロールして……それで自分の仕事をまっとうできたなら、きっと少しは自信がつくと思うから。
恋と仕事の両立……私にも、できるかもしれないって。