極甘上司に愛されてます
取材、当日。
編集長の運転する社用車で、先月営業を開始したばかりの結婚式場を訪れた。
「……外観から素敵ですね」
首から下げた一眼レフを覗いて、まずは全体像を写真におさめる。
手前にある建物はおとぎ話のお城を思わせるクラシックなつくりで、奥に見えているチャペルも、まるでヨーロッパにある本物の教会のよう。
その独特の雰囲気に、ここだけが街中から切り離されて、時間の流れがゆっくりになっているかのような錯覚を起こす。
「花の香りもすごいな」
ところどころに施されたガーデニングを眺める編集長が言う。
……あれ、おかしいな。私、その香りわからないんだけど。
「……結構香ってます?」
「ああ、男の俺にはきついくらいだ。……お前、鼻詰まってんのか?」
控えめに鼻を啜ってみると、空気は少し通り抜けただけですぐ息苦しくなり、私は思わず咳込んだ。
「みたいです……風邪引いたのかな」
「そんなんで料理の味わかるのかよ」
「朝ごはんの時は気にならなかったんで……たぶん大丈夫です」
また何度か鼻呼吸を試してみたけど、ときどきはちゃんと通るから大したことないと思う。
私は編集長の背中に続いてお城の自動ドアをくぐり、担当者と待ち合わせているサロンへ向かった。