極甘上司に愛されてます
「では、今日はレストランの方で料理を召し上がった後、各会場をご見学なさるということでよろしいですか?」
「ええ、それでお願いします」
「では、こちらへどうぞ」
埃ひとつついていない黒のスーツに身を包んだ担当者の女性は、さすがプロと言った感じに私たちをてきぱきとレストランまで案内してくれた。
レストランは一般の方向けにも普段から営業しているらしく、私たちの他にもランチを楽しむお客さんが何組もいて、テーブルはほとんどが埋まっていた。
席に着いた私は、今日の取材のために貸し出された結婚式用のメニュー表を、自分のメモにせっせと書き写しながら料理が運ばれてくるのを待つ。
そんな私を見て苦笑した編集長が言った。
「……もう少しリラックスしてもいいんじゃねぇの?」
「いえ。今ちゃんと書いておかないと忘れちゃうんで」
「……ま、お前がそうしたいならいいけど」
軽く言って、水の入ったグラスを傾けた編集長。
それからしばらく私たちが無言でいると、頭上から唐突に女性の声がした。
「透吾?」
パッと顔を上げると、私たちのテーブルのそばに一組のカップルがいて、緩く髪を巻いたオトナ系美人の女性が、編集長を見て顔を明るくしていた。
……下の名前で呼んだということは、かなり親しい仲? 元カノ……とか。
いやでも、それなら隣に彼氏っぽい人いるのに、わざわざ声掛けないか……