極甘上司に愛されてます
メモをする手を止めて成り行きを見守っていると、編集長が静かにグラスを置いて穏やかな声で言った。
「留美。久しぶりだな。そちらは……」
「あ、紹介するね。彼氏の哲哉です。今度結婚することになったから、今日はその下見にね」
ぺこりと頭を下げた彼氏さんはちょっと頼りなさそうな印象だけれど、その代わりにすごく優しそう。
「留美の友人の高槻です」
それだけ言って頭を下げた編集長は、いつもと特に変わらない。
……友人。その言葉通りの関係なのかもしれない。
少しだけ気まずい展開を予想していたけれど、それは取り越し苦労だったのかな。
私が安心していると、留美さんの猫のような瞳が私の方を向く。
「透吾、そちらの可愛らしい方は?」
……え。私?
可愛らしいっていうのはお世辞に決まっているのに、留美さんのような美人にそう言われるとどぎまぎしてしまって、自己紹介にまごついていると、私より先に編集長が口を開いた。
「コイツは……俺の婚約者だ」
……こん、やく、しゃ?
編集長、何言って――
「やっぱり! そうじゃないかと思ったんだ。透吾には年下の方が合うと思ってたの」
戸惑う私には気づかず、両手をぱちんと合わせて嬉しそうに言う留美さん。
そんな彼女の姿を見ていたら、おぼろげながら私にも状況が見えてきた。
「……初めまして、北見亜子です」
ぺこりと頭を下げつつ、内心で思う。
やっぱり友人って言う言葉は嘘で、留美さんはおそらく編集長の元カノなんじゃないかな。
そして彼女は、今自分は幸せだけど編集長はどうなのかって、その確認をしているんだ。
……そして、彼にも婚約者がいると知って、安心してる。