極甘上司に愛されてます
留美さんたちの姿が見えなくなると、編集長は深くため息を吐き出し、神妙な面持ちでテーブルに手を付くと、私に向かって頭を下げた。
「北見! 申し訳ない! この通りだ!」
「ちょ、ちょっと編集長……! いいですって、頭上げてください!」
私たちのテーブル、注目を浴びちゃってる……!
「……いや、いくらなんでも今の嘘はちょっとお前に対して配慮がなさすぎた」
「気にしてませんってば……だって、留美さんのためなんですよね?」
「……ああ」
ゆっくり姿勢を戻した編集長は、伏し目がちにうなずいた。
……やっぱりそうだったんだ。
編集長は留美さんの幸せを願ってあんな嘘を……
それからしばらく沈黙が流れた私たちのテーブルに、ひと皿目の前菜が運ばれてきた頃、編集長は再び口を開いた。
「アイツとは……五年付き合った。結婚話も出た。でも、俺が隠し事をしてたせいでダメんなったんだ。……だから、今度こそ幸せになって欲しくてな」
「隠し事……って。さっき留美さんが言ってた、“あのこと”ですか……?」
「ああそうだ。情けなすぎて内容は言えないが、留美にはつらい思いをさせた。……だから、次の相手には同じ思いさせんなって意味で、ああ言ったんだろうな」
静かに語る編集長は、どこか憂いを帯びた目をしていた。
私たちくらいの年齢ではまだきっとできない、大人の男の人の顔……
普段仕事中には見せることのない彼の表情に、私の胸は小さくきゅうっと鳴った。
「悪い、お前には関係ない話だ。さっさと食うぞ。あ、写真も忘れるなよ」
「……はい」