極甘上司に愛されてます
すぐそこまで結婚が迫っていたのに、その話がなくなるだなんて経験、きっとつらかっただろうな……
編集長は、私と一緒にこの企画の担当でよかったのかな?
もう立派な大人だし、私ほど仕事に私情を持ち込みすぎることはないだろうけど……
「……どうした?」
私の視線に気づいた編集長が、不思議そうにこちらを見た。
「あ、いえ。なんでもないです!」
私は気を取り直してこのチャペルの雰囲気、実際の式の流れなどを担当者さんに聞きながら手帳に書きこんでいった。
それが済むと祭壇から降りて、周囲を見渡しながら出入り口の方へ向かう。
「……北見、ちょっと待て」
「はい?」
……何か、まだ撮り足りない写真でもあるのかな。
バージンロードの中ほどで足を止め、近づいてきた編集長の顔を見上げる。
担当者さんは先に扉の方へ向かい、私たちのために扉を開けてくれた。
目の前にいる編集長はなぜか無言で、私の両肩に手を置く。
「……なんですか? この手」
左右に視線を動かし、骨ばった大きな手に肩を包み込まれているのを見ると、たとえ目の前にいるのが上司であっても徐々に鼓動が速くなる。
編集長の、彫りが深くて目と眉の距離が近い日本人離れした目元はやっぱりカッコいいし、うらやましいくらい鼻筋も通っているし、顎と口元の髭がワイルドかつ色気を醸し出してるし……
「――亜子」
さらには唐突に下の名前で呼ばれて、私のドキドキは最高潮に達する。
ど、どうしちゃったの編集長?
留美さんに会ったせいで、頭のネジが一本抜けちゃったんじゃ……