極甘上司に愛されてます
廊下の端に位置する狭い給湯室で一人分のコーヒーを入れ、脳をフル回転させるためスティックシュガーを三本分投入したマグカップを手にオフィスに戻る。
するとさっきはいなかった編集長の高槻透吾(たかつきとうご)が、自分の席で渋い顔をしながらスマホをにらんでいた。
清潔感のある黒髪の短髪、彫りの深い端正な顔立ちに少し伸ばしたヒゲがアクセント。
三十六歳という年齢は私にとってはちょっと大人すぎるけど、見た目は結構ステキだよね……
なんて、ワイルドイケメンな編集長の顔を横目に椅子を引いて席に着くと、彼は私の姿に気付いて言う。
「……あ、いた。北見、暇ならちょっと話が――」
「あいにく暇じゃありません。今、お花畑の伐採中なので話しかけないで下さい」
「なんだそれ?」
私がふざけてるとでも思っているらしく、編集長は半笑いだ。
「……もう、逆さまの写真を載せた記事なんて作りませんから」
けれど私が小声でそう言うと、彼はそれきり話しかけて来なくなった。
あの記事……思い出すだけで、恥ずかしいやら情けないやら……
何より被写体となっている絵を描いた、画家の小林風人(こばやしふうと)先生に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
私と一緒に頭を下げてくれた、編集長にも。
……こんな思いはもうたくさん。
私はたぶん、恋愛と仕事と、両方うまくこなすなんてことはできない人種なんだと諦めよう――。
そこまで考えると、私は机の上の資料に手を伸ばし、今度こそ仕事に取り掛かるのだった。