極甘上司に愛されてます
……まさか、理恵さんがあんなことを言うなんて。
理恵さんといえば、お隣の営業部で男性陣にも負けない営業成績を誇り、見た目も文句なしに美人で、同い年の旦那様と大恋愛の末に結婚した、“女子の憧れ”を全部手にしたような大人の女性だと思っていたのに……
そんなことを考えてしばらくぼうっとしていたけど、仕事の始まる時間が迫ってきて私は慌てて蛇口をひねった。
マスクを外してポケットにしまい、粉薬をさらさらと口の中に落として水で流し込むと、ふうと息をつく。
これでなんとか午後までに熱下がらないかな……
ポケットにしまったマスクを出しながら給湯室を出ようとすると、ちょうどこの部屋の扉が外側から開いて、少し判断力の鈍っている私は入ってきた人物と正面衝突してしまった。
「ご、めんなさ――」
目の前の白いシャツにファンデーションが付かなかったことに安堵しながら顔を上げると、そこにいたのは編集長。
「いや、こっちこそ……って、北見か。お前もコーヒー?」
そう尋ねてくる彼は、今日も朝から素敵なお姿。キッチリと締めたネイビー系のストライプ柄ネクタイがよく似合う。……って、見惚れている場合ではなくて。
「おはようございます。いえ、私はその……風邪を引いてしまいまして」
体調管理の甘さを指摘されるのではないかと思うと気まずくて、私は小さくなりながら風邪薬の箱を見せた。
「……熱は?」
「ありま……す。微熱、ですけど」
「平気かよ、別に休んでもよかったのに」
「いえ! だって今日は大切なインタビューの日だし!」