極甘上司に愛されてます
首を横に振りながら強い口調で言うと、編集長は少し考えたあと急に難しい顔になってこう言った。
「……お前、今日は帰れ」
「え……? だって高田さんご夫妻にせっかく時間作ってもらって……」
「だってもクソもねーよ。奥さんに風邪うつったらどうすんだ」
奥さん……?
一瞬何のことを言っているのかわからなかったけれど、すぐに思い当たった。
「……奥さん、妊娠中……」
……ダメだ私、すっかり忘れてた。
こんな大事な日に熱を出してしまったうえ、人としての基本的な気遣いができなかったことが情けなくて、私はぎゅっと唇を噛んだ。
どうしよう……無理を言って別の日にしてもらうしかない?
でも、そんなにスケジュール余裕あったっけ? オフィスに戻って手帳を確認してみないと何とも言えないけど――。
「……んな情けねぇ顔するな。インタビュアーは誰かに代わってもらえばいい」
「え、でも」
「大丈夫だ。その分あとでお前になんか仕事回すように言っとくから」
今回のことは完全に自分が悪いんだから、私にこんなこと言う権利はないけれど……自分の担当している仕事は自分でやりたかった。初めて任された大きな特集だったから、なおさら。
私がうまく自分を納得させることができずにうつむいたままでいると、編集長が私の頭にぽんと手を乗せて言う。
「悔しかったら、早く風邪治せ」
……そうだよね。
正論すぎて、何も言い返せない。