極甘上司に愛されてます
病院での診断はただの風邪だった。
そのことにはほっとしたけれど、お医者さんは『熱は今夜がピークでしょう』と言っていて、その言葉通り日が暮れてくるに従って、体のだるさは増した。
「……早退してよかったな」
フラフラの体でキッチンに立ち、自分のためにお粥を作っている最中、思わずそんな言葉がこぼれた。
万が一身重の奥様にこの風邪をうつしてしまっていたら……と思うと、編集長の判断がいかに正しかったかったか、自分がいかに周りが見えていなかったか思い知らされて、心が沈む。
そのまま少しぼうっとしていたら、ぐつぐつと音を立てる鍋の中の水分が一気に減ったことに気付いて、私は慌ててコンロの火を止めた。
……セーフ、焦げてない。
何の味付けもしてない真っ白なお粥。
それをお茶碗によそうこともせずに、れんげを鍋の中に入れてひと口食べてみる。
「……美味しくない」
別に不味くもないけれど、熱のある体を酷使して作ったのにこの淡泊すぎる味……
消化にはいいんだろうけど、口に運ぶたびになんだか切なくなる。
……そういえば、一人暮らしを始めてから病気になるのって初めてかも。
こんなに気持ちが浮かないのはそのせいかな。
いや……違う。
実家にいるときも、私はいつも変な風に強がっていた気がする。
二つ下に妹がいて、私は長女。
お姉ちゃんなんだからしっかりしなきゃって、幼い頃から体と心に染みついていて……
だからなのかな。大人になってから、自分を甘えさせてくれる恋人にのめり込みすぎてしまうのは。