極甘上司に愛されてます
「……わかりました」
「よし。いい子だ」
従順なふりで頷いた私の手に、ICレコーダーを乗せてくれた編集長。
それを握りしめるとなんだかすごくほっとした反面、気が抜けたせいか足元が急にふらついてきて、咄嗟に壁に手を付いた。
「……平気か? 悪い、ずっと立ち話させて」
「大丈夫です……これ、本当にありがとうございました」
やっぱり、これを聞くのは少し寝てからの方がよさそうだ。
そう思いながらぺこりと頭を下げ、顔を上げた瞬間、後頭部がぐいと引っ張られる感覚がした。
そして引き寄せられた先で唇にぶつかったのは、温かくて柔らかいもの。
これ、って……
私は瞬きを繰り返しながら、必死で状況を飲み込もうとする。
ふわりと鼻をくすぐるのは、甘くて深みのある大人っぽい香水の香り。
目の前には、編集長の伏せられた長い睫毛。
私の手から離れたICレコーダーが、カチャンと音を立てて床に落ちる。
なんで、編集長が私に……キス、なんて。
押し返さなくちゃ、と思った頃に唇の熱はふっと離れて行き、どういう意味なのかと視線で問いかけると、彼は微笑を浮かべて言った。
「……早く良くなるおまじないだ。じゃーな、無理だけはしないように」
その言葉を最後に玄関の扉が閉まり、編集長の姿が見えなくなると私は急に我に返った。
い、今のって……何? 私、熱のせいで何か変な幻影でも見た……?
それにしては、まだ唇に感触が……
「きっと……深い意味なんてない、よね」
……寝よう。考えていたらまた熱が上がりそうだもの。
“早くよくなるおまじない”――だなんて、編集長に似合わない台詞も言ってたし、きっとふざけていただけだ。
無理矢理自分を納得させた私は、部屋に戻ると思考を遮るように、ベッドにもぐりこみ布団を頭からかぶった。