極甘上司に愛されてます
……私、なんで抵抗しなかったんだろう。
体調不良で、しかも不意打ちだったとはいえ、自分の彼氏が知ったら悲しむようなこと……もっと毅然とした態度で拒まなきゃダメだったのに。
このこと……渡部くんに話すか話すまいか……
悩みながら何気なく視線を動かすと、出窓に置いた花瓶が目に入る。
少し元気がなくなってきたけれど、まだまだキレイに咲いているたくさんの花は、取材の日に“騒がせ賃”として編集長がくれたものだ。
……いきなり結婚式の再現はされる。花束を贈られる。挙句の果てにはキスされる。
もしかして私、からかわれてるのかな?
恋にうつつをぬかし過ぎて仕事をミスするわ、彼氏と間違えて上司に別れを告げるなんてヘマをやらかすわ、間抜けすぎる部下だよね……どう見ても。
だから、わざと私がどぎまぎするような行動を取って、その反応を見て楽しんでいるのかもしれない。
そう思うと、納得できることばかりだ。
菊治さんが言っていた“悪がき”という言葉もそれなら頷けるし、そんな意地悪をして楽しむ性格の人と結婚したら、確かに苦労しそうだ。
優しそうに見えて意地が悪いなー、編集長。ひとまわりも年上なのに、大人気ないと思わないのかな……
編集長の性格はともかくキスの理由が腑に落ちたところで、私は椅子から立ち上がった。
気分転換にコーヒーでも、とキッチンの棚を開け、ついでに甘いものでもないかとそこを物色する。
そうしていると、ふいに玄関のチャイムが鳴った。
まさかまた編集長……?と少し身構えながらキッチン脇のモニターを見ると、そこにいたのは予想外の人物。