極甘上司に愛されてます


連休中だからなのか、夕方の早い時間から賑わいを見せる駅前通り。

多くの飲食店が軒を連ねている中、合コンはどのお店で開催されるんだろうと佳子の隣に並んで歩いていると、一本細い道に入ってすぐのビルの前で、佳子は足を止めた。


「到着ー。ここの四階だよ」

「あ……ここ、知ってる」


看板を見上げて、私はつぶやく。

そこは一年前くらいに、ウチの新聞で取り上げたことのある落ち着いたバーだ。

実際に来るのは初めてだけれど、担当した先輩が素敵なお店だったと話していた。

確か個室が充実していて、結婚式の二次会だとかちょっと贅沢な女子会、そしてまさに合コン向けなお店だった気がする。


「こんばんはー……」


佳子にしては猫をかぶって大人し目に入っていった個室では、長方形のテーブルを挟んで男性が三人、そして佳子の友達らしき二人の女の子が席についていた。

佳子が友達の隣に行ってしまうと私が座るのは入り口近くの幹事席になるけれど、どうせ人数合わせのサブメンバーだからちょうどいい。

みんなが楽しく飲んで会が盛り上がるように、オーダーは任せてもらおうじゃない。
と、変な気合を入れつつ端の席に着く。


「姉妹揃ってキレイなんだね」


ふいに男性陣の方からそんな甘ったるい声がして、私は思わずその発言をした人の顔を見た。

小ぎれいなジャケットにブランド物の腕時計。ナチュラルに整えてある茶髪のその人は、いい人っぽい笑顔を笑顔を浮かべてはいるものの、なんだかわざとらしいというか、下心が見え隠れしてるって言うか……エセ大人男子な感じ。

他の二人も“女の子に好かれようオーラ”が半端なくて、常ににこにこしてるのがなんだかなぁ。

まあみんな出会いを求めてここに来てるわけだから、そういうの隠す必要もないんだろうけど……


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