極甘上司に愛されてます
「へえ、透吾って編集長なんだ」
「お前サッカー部でも部長だったもんな。人の上に立つ素質あんときからあった気がする」
「ああ。あの頃から面倒見よかったよな」
口々に昔の編集長について語り出す男性サイドに、佳子が尋ねる。
「みなさん、サッカー部だったんですか?」
「そうそう。強豪でもないけど弱小でもなく、フツーだったけど」
「えー、私、高校の時サッカー部のマネだったんです! なんか奇遇ですね」
佳子がうれしそうに言えば、わいわいと場が盛り上がり出す。
汗臭くて汚い洗濯ばかり嫌になると言って、一年で退部したのはどこの誰だっけ……と内心悪態をつきつつ、私はこのお店自慢のフルーツカクテルに口を付ける。
透明感のある黄色のお酒の中に、角切りにした生のマンゴーが鮮やかなそれは、口当たりも爽やかでとても飲みやすい。
「お前は、新聞部だっけ?」
ふいにグラスの向こうから質問が飛んできて、佳子たちの会話には加わらなかったらしい編集長と目が合った。
「……覚えてたんですか。面接のときのこと」
高校時代に新聞部で活動していたこと……それを武器にして挑んだ就職活動。
けれど大手の企業からはことごとく内定をもらえなくて心が折れかけていたときに、今の会社に拾ってもらえたんだ。
もともとは政治や経済、社会のことを一線で報道する記者を志していたけれど、ターゲットを地域の住民に絞って地域の良さを掘り下げ、読者と近い距離でつくる新聞もとても意味のあるものだと今は思っているし、仕事は楽しい。
「そりゃあな。その経験を買ってお前を推したのは俺だし」
「え。そうだったんですか?」
「ああ。やる気もあるし真面目そうだし、きっとウチの会社の役に立ってくれるだろうってな」
サーモンとチーズに、剣に見立てたピックが突き刺さるお洒落なピンチョスをつまんでいた彼が、そう言って微笑む。