極甘上司に愛されてます
……なんか、ひと雨来そうな雲の色。
九月に入ったばかりのお天気はまだ夏を引きずっていて、ここ数日帰りがけにこんな天気になることが多い。
だから、今日もバッチリ晴雨兼用の折り畳み傘を持って――――
「……あ、忘れた」
やっぱり、どこか抜けている最近の私。
その理由はもう明白なんだから、やっぱり断ち切らなくちゃだめだ。
彼はいつごろ仕事が終わるかな……
落としたままにしていたスマホの電源を入れたけど、特に新しいメッセージはなかった。
とりあえず、いつもの場所で待ってよう……
スマホをバッグにしまって、私は歩き出す。
「キミが隣にい~れば~、ボクは強くな~れる~」
いつも彼との待ち合わせ場所に使っている駅ビルの出入り口近くで、ストリートミュージシャンがそんな歌を歌っていた。
でも、それはお世辞にもうまいと言えるようなレベルじゃなくて。
こんなトコで恥ずかしげもなく熱唱できるんだから、それ以上ココロ鍛えてどーすんのよ、とか。
“キミ”の存在で、弱くなる人だっている。それを言わない歌詞は、ただのキレイごと……自己満足だ、とか思ってしまう。
……素直に歌を受け取れない私って嫌な女だな、と自虐的な気持ちになりながらうつむき、パンプスのつま先を見つめながら、彼が来るのを待った。