極甘上司に愛されてます


なんで編集長にこんな弁解じみたことを慌てて言ってるんだろう。
こんなこと、上司に説明する義務はなくない?


「編集長こそ、合コンには興味ないって言ってませんでした?」


ちょっと反撃がしたくなってそう聞いてみると、彼は少し気まずそうにぼそぼそと言う。


「……いや、誘ってきたのがアイツらだったから、久々に昔話がしたくなって」

「ホントですかそれ。実は彼女欲しいから来たんじゃなくて? ウチの妹、たぶん編集長のこと狙ってますから、簡単に落ちるんじゃ――――」


――ドン!と耳元で大きな音がして、私はびくっと体を震わせた。

狭い通路で壁に追い詰められ、怖い顔をした編集長が至近距離に迫る。


「……俺は基本的には温厚なんだけどな。今のはちょっと効いた」


怒りを抑えたように、低い声が震える。

キスをされたときにも感じた編集長の香水の香りにお酒の匂いが少し混じって、くらくらとしそうになりながら、今日は負けるもんかと彼の目を睨む。


「あの!……もう、こうやって私をからかうのやめてください」

「からかう?」

「そうですよ。いつも私を動揺させるようなことばっかり――!」


不平を訴えている途中で編集長の体が急に離れ、横を向く彼の視線を追うと、店員さんに連れられたお客さん二人がここを通ろうとしているところだった。

う、今の見られてしまっていただろうか。

熱くなり過ぎた自分に恥ずかしくなりながらうつむき、編集長と通路の両側に分かれてその人たちが通り過ぎるのを待っていると。


「……亜子?」


ドキン、と大きく揺れた私の心臓。

……まさか。最近聞きたいけれどずっと我慢している、その高めの爽やかな声は。


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