極甘上司に愛されてます
「え……?」
う、わき……? いやいやいや、渡部くんに限ってそんなことは断じてあり得ない。
確かに女の人と二人でいたけど、それくらいで浮気だって決めつけるほど嫉妬深い女じゃないし、私。
「根拠のないこと言わないで下さい。さっきの人は同僚だって言ってたじゃないですか」
「……それは本当かもしれないけどな。でもあの女、お前のことあからさまに睨んでたじゃねぇか」
「……確かに」
もしも和田さんが浮気相手なら、彼女である私のことは気に食わない。だから彼に気付かれない角度からあんな風に睨んできた……ってこと?
いや、でも。そう考えれば和田さんの怖い顔の説明にはなるけど、そもそも渡部くんは浮気なんかする人じゃないってば。
「なんで決めつけるんですか、彼が浮気してるって」
嘘を言って私の反応を窺って楽しんでいるんじゃないでしょうね。
そうだとしたら、今回は本気で怒ります。いくらなんでも、言っていい冗談と悪い冗談ってものがある。
マンゴーカクテルをぐいっと一気飲みして強気な目を編集長に向けると、彼も目をそらすことなく、私を射抜くような強い瞳をして言った。
「……見たんだよ」
「見た……って、何を」
「お前がいなくなった瞬間、アイツはほっとしたような顔して、女の腰抱いて……個室に入る前、店員のいる前で堂々とキスしてた」
胸がどくん、と動揺して大きく跳ねた。
……嘘だ。これは編集長の嘘。
編集長がまさか他人を傷つけるような嘘をつく人だなんて思わなかった。
私は渡部くんの浮気現場を想像しそうになる脳を騙すように、編集長に対する怒りの感情だけを、自分の中に広げていく。