極甘上司に愛されてます
「もういいです。私は彼を信じてますから。自分の目で見たならともかく、第三者に与えられた不確かな情報で揺らぐような軽い気持ちで彼と付き合ってません」
きっぱり言ってグラスに手を伸ばし、けれどさっきお酒は飲み干してしまったんだと気付くと、私は宙に浮いたままの手を野菜スティックに伸ばし、つかんだきゅうりをソースも付けないままでばりばりと噛み砕く。
「……そうか、悪かった」
……あれ、意外にあっさり引き下がるんだな。やっぱり嘘だったってこと?
一瞬瞳を伏せた編集長の顔から、何か読み取れないかとじっと見つめていると。
「じゃあ、自分の目で見れば納得するんだな?」
再びこちらに向けられた視線に、ふざけたような色はない。
それに、この自信に溢れたものの言い方……まさか、本当に渡部くんが。
「……はい。編集長がそこまで仰るなら」
疑う気持ちはほんの僅か。残りは、彼の潔白を証明したいという気持ちがほとんどだ。
大丈夫。信じてるもの、私は。
「じゃあ、この会がお開きになった後、待ち伏せるぞ」
「……わかりました」
それから編集長とは口を利かず、だからと言って相変わらず楽しそうな佳子たちの輪に入る気にもならず、お酒を追加注文しては黙ってそれを飲み、気まずい時間を酔いで埋めていくしかなかった。