極甘上司に愛されてます
7.黒か白か
「――それじゃあ、俺らは二軒目行くから」
「またな透吾。亜子ちゃんと佳子ちゃんも気を付けて」
午後十時過ぎ。私、編集長、佳子以外のメンバーはまだ飲み足りないとかで別のお店に行くらしく、ビルの前で彼らと別れた。
曇り空で星の見えない夜空の下、楽しそうな五人の後姿を見送り、少し肩を落としたように見える佳子。
……収穫なし、ってことが悔しいのかな。
色々話を聞いてあげたいところだけど、私にはまだやることが残っている。
私はバッグを探り、ハート型の革製キーホルダーのついた家の鍵を佳子に差し出して言う。
「ゴメン佳子、先に家帰ってて?」
「え、なんで……」
そう言いかけた佳子が、私と、その後ろに立っている編集長の顔を交互に見る。
そして苦々しくため息をつくと、私をじろりと睨んだ。
「……お姉ちゃんの浮気者」
「え? ……あぁ、違うよ? ちょっと、編集長と一緒に調べたいことがあるだけで」
「はいはい、調べたいって、どうせ体の相性とかでしょ?」
「そ、そんなわけないでしょ!」
……何を言い出すんだかこの子は全く。
拗ねたようにそっぽを向く妹の姿に呆れていると、後ろにいた編集長が私たちの間に立って、ジーンズのポケットから黒い革財布を出した。
その中から一万円札を取り出し、佳子の手にそっと握らせた彼が言う。
「……悪いけど、姉貴ちょっと借りるな。これでタクシー使ってくれ。夜の一人歩きは危ないから」
「……! は、はい」
わ、編集長、あの佳子を黙らせるなんてすごい。
……じゃなくて!
上司に妹のタクシー代出してもらうなんて、申し訳なさすぎる!