極甘上司に愛されてます

「佳子、それ編集長に返して！　お金なら私が――」

「……いいよ北見。それより大通り出てタクシー拾って来てやれ」

「でも！」

「……妹さんとちょっと話したいんだ」


……編集長が、佳子と話を？　まさか、妹を気に入って？

そうだったら邪魔するわけには……というか、言う通りにしないと、佳子に後からぐちぐちと恨み言を言われそうだ。


「わかりました……」


二人に背を向け駅前通りに向かって歩き出すと、後ろで彼らの会話が小さく聞こえた。


「……お姉ちゃん…………ですか？」

「うーん……不器用……必死…………かな」


とぎれとぎれで段々聞こえなくなる会話の内容は、どうやら色っぽいものではなさそうだ。
と、いうより、私の悪口に聞こえないこともない……いや、事実だけどね、“不器用”、“必死”。

おおかた佳子が私の仕事ぶりか何かを聞いて、編集長はありのままを答えたんだろう。

タクシーを捕まえてから二人を呼ぶと、すっかり打ち解けたらしい彼らは笑顔で言葉を交わしながらやってきて、佳子は車に乗り込む寸前に、こんなことを言った。


「……お姉ちゃんって、ホント男見る目ない」


その意味をかみ砕いているうちに、バム！と閉まった後部座席のドア。
佳子を乗せたタクシーはさっそうと走り去り、赤いテールランプが角を曲がって見えなくなった頃にはっとした。


「まさか、佳子に余計なこと言いました？」


男見る目ない＝彼氏は浮気男。

まだ確定してないその疑惑を、編集長の口から佳子に話したんじゃ――！