極甘上司に愛されてます
どくんどくんと次第に大きく速くなる自分の鼓動。
でもまだ、決定的なものを目撃したわけではない。
あの手は酔った和田さんを支えるためで、これから二人は別々に帰るだけかもしれないじゃない。
そう自分に言い聞かせていたとき。
「……北見?」
編集長の怪訝そうな声で気づく。
無意識のうちに、隣にいる彼の大きな手を強く握ってしまっていたことに。
「ご、ごめんなさい……つい」
「いや……」
……私はたぶん、一人でこの先を確認する勇気がないんだと思う。
今は疑惑でしかないグレーな事実が、真っ黒に塗りつぶされてしまうことが、怖いんだと思う。
……それでも、私。
「お前……もういいだろ、ここまで見れば完全に――」
「ダメです! ……もしかしたら、大どんでん返しがあるかもしれないじゃないですか……!」
まだ、白になる可能性だって、ゼロじゃない。
彼女の私がそれを信じないでどうするの。
「……わかった。お前の気が済むまで付き合う」
右手を握り返すぬくもりと優しい声色に背中を押されて、私は一度編集長の目を見て大きく頷く。
そして、渡部くんたちとは一定の距離を開けながら、注意深く彼らのあとをつけた。